メールマガジン(11.23)を配信しました。

「すべての子どもたちのための良い体育の授業づくりをめざして」

 20年ほど前のことですが、今でも鮮明に記憶に残っている体育の授業があります。それは、埼玉県内のある小学校の6年生のフラッグフットボールの授業だったのですが、その授業には、知的障がいのある女子児童(Sさん)が一緒に参加していました。Sさんが所属するチームは、運動能力の高い男子児童2人(S君とM君)を合わせた3人構成でした。ゲームは、児童の実態を考慮し、3対3の少人数で行われていましたが、相手チームはS君とM君をマンツーマンで守っていたこともあり、なかなかタッチダウンには結びつきませんでした。そのときハドル(プレイとプレイの間の作戦タイム)で、「俺たちがおとりになって守りを引きつけて、Sにボールを持って走ってもらおう」という作戦が立てられ、いざプレイ開始となりました。S君とM君がボールを持ったふりをしながら(フェイクの動きで)両サイドに広がるように走ると、守りはそれに反応してサイドへ移動し、コートの中央には、誰もいない道(スペース)ができました。そして、その道を、ボールを持ったSさんが全力で駆け抜け、見事にタッチダウンを獲得しました。
 そのときのSさん様子は今でも忘れられず、興奮しながら楕円形のボールを高く掲げ、喜びを表現していました。また、S君とM君もSさんのもとへ駆け寄り、自分たちのことのように喜んでいました。そして、そのチームの様子をハドルのときから見守っていた先生も、Sさんと握手をして称賛し、S君とM君にも「よくやった!」と声をかけていました。
 近年、グローバル化の進展とともに、ダイバーシティを重視する社会が求められるようになりました。人種や国籍、性別、障がいの有無、価値観などの多様性を認め、多様な他者と共に支え合いながら生きていく社会(共生社会)の実現を目指したさまざまな取り組みが行われています。もちろん、体育においても、技能の程度や性別、障がいの有無などにかかわらず、すべての子どもたちが運動やスポーツの価値を享受できるような授業づくり(先生や子ども同士の関わり合いを含む)が求められています。そのような授業を、20年前にすでに実践されていた先生に対する尊敬の念と、これから目指していく体育授業の1つの姿として参考にしていただきたいという思いから、エピソードとして紹介させていただきました。
 これからも、すべての子どもたちが笑顔になれる体育の授業づくりを、体育授業研究会の先生方ともに追究していければと思っています。
                   早稲田大学 吉永 武史
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□ 巻頭言
「すべての子どもたちのための良い体育の授業づくりをめざして」
   早稲田大学 吉永 武史
□ 第5回体育授業研究会Webinar(報告)
□ 第25回体育授業研究会東京冬大会案内
□ 事務局より
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